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ホースクリニシャン・宮田朋典氏の共生メソッド02_人間の世界へ馬を招き入れる

ジョインアップに成功した後には、人間世界の装備への許しを馬からもらうステップへと進もう。乗馬のための装具に馬を慣れさせることで、人の手が身体に触れても平気になり、人への信頼も増してゆく。

Lecture 2018.07.27

ホースクリニシャン・宮田朋典氏の共生メソッド02_人間の世界へ馬を招き入れる

馬も本来、野生のままであれば乗馬のための装備などになれる必要もない。とはいえ実際に人と共生していくのであれば人間世界のさまざまなものやルールに慣れていかなければならない。ホルターはコミュニケーションを図るためのセンサーであり杖は人の手の延長である。馬にそう認識してもらうためには、緊張とリリースを何度も繰り返し馬自身が理解できるところまで根気よくトレーニングを重ねていくことだ。

ロープを揺らし、馬が自ら考えて下がった時にリリースをあげることが大切。ロープの揺らし方は段階で行う。最初はロープを持つ手と反対の手の指を左右に揺らす。次にロープごと手首を揺らす。その後で肘から下を揺らす。そして最後に腕全体を使って揺らす。この4段階に分けて揺らすことを繰り返していると、小さな動きでも馬が下がるようになる。

 

 馬を調教する過程は、敢えて語弊を恐れずに言わせていただくならば、人間世界に馬を引き込むこととも言い換えられる。ハミや鞍などの装具をつけた状態に慣れ、馬が乗り手を信頼し、多少の音や事態にも驚くことなく平静を保ち、乗り手の言うことを聞けるようになることが理想的である。そして最終的にはすべての装具なしに小さな合図で人と馬のコミュニケーションが成立するように、馬自身が自らの脳を使って正しく判断し考えられるようにすることが大事だ。
 今回は、馬に装具をつけることへの“許し”をもらって馬との会話をスムーズにするところからスタートした。ホルターを見せてジョインアップし、ロープで、馬の全身をなでた後、ロープの先を体や肢などに軽く投げ上げる。
 このとき、馬が立っていることで大丈夫だと自ら気付くまで一定のリズムで行うとロープの末端も手の延長として馬は認識できる。こうして、その人物が持つものすべてが警戒の対象ではなくなっていく。前号でもお伝えしたとおり、人間の力は馬にはかなわないので、ホルターをつけることはある程度制御しやすくするためでもある。
 馬との信頼関係を築くステップとして、α(リーダー)である人間の合図を受け入れやすくさせよう。どういう精神状態であっても馬が脳を使って考えるようにすれば、恐怖心や警戒心からαである人間に体当たりすることもなくなるだろう。その際に大切なのは馬との距離感と間の取り方に気を配ることだ。人を怖がらず、かつαとして認識する、その絶妙な距離感を身につけるよう日頃から心掛けよう。
 そこで今回は、ホルターのロープを揺らして馬が後退を学ぶメソッドをご紹介する。最初は小さく、優しく揺らし、それから馬の肢が動くのに十分な間をあけてホルター全体が揺れるぐらいに動かしてゆく。馬がそのときに感じる不快感から逃れようと下がった瞬間にリリース(開放感⇒揺らすのを止める)をあげることで馬は自ら下がることを選択するようになる。ここでのポイントは、馬が考えるまで“待つ”ということ。つまり「下がって楽になった」と馬が感じるようにすれば、馬は「下がれば楽になる」と自らの脳を使って考えるようになるのだ。距離と間を取りながらロープを振り、馬がバックして止まったときにすかさずリリースをあげ、ロープへの警戒心をなくして停止することを合図できるようになれば、人間はαとしての「約束」=「ロープを振ったらバックして止まる」を作ったことになる。
 馬の調教に関してはまず最初に停止の合図ができれば、走りの合図も可能というわけだ。
 このように馬との信頼関係を築く上で大切なことの一つが、“プレッシャー&リリース(緊張と解放)”である。今回の場合では、ロープが張って引っ張られている状況がプレッシャー、緩むときがリリースとなる。ロープの緩みが楽に感じられると、馬はロープをつけていても安心だと感じる。両者の間が緊張状態である場合は、馬の頸を左右にストレッチさせてみよう。これは、馬をリラックスへと促す効果がある。
 逃げることでリラックスできる馬は、見慣れないものや聞き慣れない音などの遭遇するとまず逃げようとする。人間社会に存在するものや音に対しても、最初は同様の反応をする。これでは共存関係を築くことが難しいので、根気よく人間社会でのものや音になれさせていくことが重要なトレーニングとなる。

スティックが手の延長線として認識することで怖がることがなくなるように、ロープもなれさせることができる。続いてカサカサと音を立てるビニール袋をスティックの先につけゆっくりと顔に近づけていくことで少しずつなれさせていく。

 

 前回、脚立のような大きな異物に慣れさせるジョインアップをご紹介した。今回は、基本的な信頼関係を築いた上で、よりコントロールしやすいようにホルターをつけた状況のなかで、まずはビニールやスティックに慣れさせた。次にカサカサおとを馬は、定着率は高いがその分繰り返して何度も練習して一つひとつのことに慣れさせ覚えるようにさせる必要がある動物だ。ロープの時と同様に、馬の自主性を尊重し、リラックスした状態でさまざまなものに一つひとつ根気よく慣れさせてゆくことが大切だ。

● 宮田朋典(みやた とものり) 1971年5月4日生まれ
米国などで馬の心理学、行動学、装蹄学、ロジックトレーニングを学ぶ。バイオメカニクス理論をベースとして、競走馬、乗用馬、競技馬や、馬場馬セラピーホースなどの調教や、悪癖矯正を行っている。

初心者からプロのドレッサー ジュライダー競馬ジョッキーに至る、騎乗者を対象としたクリニック指導、体使いのコーチングレッスンも行っている。ウィスパリングを軸にしたナチュラルホースマンシップの講習会などを、全国各地で開催する。那須野ケ原ファーム、加藤ステーブル、社会医療法人 河北医療財団 河北総合病院 研修講師、宮崎ステーブル 足利市グランドポニー所属。