ホースクリニシャン・宮田朋典氏の共生メソッド03_厩舎での馬へのアプローチ

馬が考えて行動するように促すアプローチに続いて、今回は馬の心理をより深く理解しながら馬へと近づく方法をお伝えする。知らないがゆえに恐怖を感じたりする場面での対処法を知って、より安全に馬に近づこう!

Practice 2018.08.17

ホースクリニシャン・宮田朋典氏の共生メソッド03_厩舎での馬へのアプローチ

厩舎のなかに入るとき、おしりを向けるのは嫌がっている証拠。頭を向けた状態で近寄るのがポイントだ。できれば両眼が見えた状態で、肩の側から近寄るようにしよう。本気で噛めず、蹴ることもできず、叩くこともできないポジションだ。

このぐらいの距離にいても、馬にとっては、最初はぼんやりとしか見えないが、2秒ぐらい経つと像がクリアになる。厩舎に入るときは、馬と顔と顔をあわせて一度目を見て自分を認知してもらい、近づくようにしよう。

 

 ホースクリニシャンを描いた映画として、本誌でも以前取り上げた「モンタナの風に抱かれて」という作品がある。そこでは馬と心を通わせるために“待つ”ことの大切さなど、随所に馬との交流方法のヒントが散りばめられている。今回ご紹介するメソッドは、この映画の途中の、ある一場面に関係する。一瞬ではあるが、主人公を演じるロバート・レッドフォードの背中がぼやけて見えたかと思いきや、クリアになっていくシーンである。お気づきの読者の方もいただろうか?

 これは、馬の目からの見え方を表現したシーン。また、背中を見せることで好奇心と安心をそそり、馬に見たいと思わせる「間」を敢えて与えているということも示すのだ。馬が像を結ぶには、ある一定の距離や時間が必要である。そのことを踏まえた上で、恐がらずに馬に近づいていってほしい。しかしながら、馬がいきなり立ち上がったり、噛もうとしたり、手綱を引っ張っても止まらなかったり、逆に引っ張っても進まないなど……、馬に初めて接する場合は特に、馬を知らないゆえにとまどう行動を馬が取ることもある。それが原因で、馬に接することに不安を覚える人も多いことだろう。だからこそ、なぜそういうことが起こり、どう対処したらよいのかを知りたいと考える人もまた多いはずだ。まだ日本では、馬の生態から心理までを総合的に鑑みた上で馬に接する理解が進んでいるとはいえない。が、 宮田氏がお伝えする共生メソッドのポイントは、「知ることで楽しみを得て、相手を許せるようになること」だ。つまり、相手を知って共生できるようになろうというもの。動物だからしょうがない、ではいつまでも距離は縮まらないのだ。

「逃げて幸せ」という動物ゆえに、その気持ちを尊重する事がとても大切。写真のように馬の愛撫の部位でもある、肩付近をなでると馬は親近感や心地よさ感じる。

 
 私たちが厩舎のなかへ入ろうとしたときに、馬がおしりを向けるのは嫌がっている証拠である。頭をこちらに向けて両眼で確認できる状態のまま近寄るのがポイントだ。馬の肩の側から近寄るようにしよう。この位置が本気で噛めず、蹴ることもできず、叩くこともできないベストポジションだ。 また、馬は広い場所を選ぶ動物なので、予期せぬことが起こると狭い厩舎のなかではプレシャーをかけられた方向とは逆の広い面積の方へ逃げようとする傾向がある。性急な直線的アプローチを避け、馬の様子を見ながらジグザグに近づき、馬が安心できるだけのゆったりとした間をとるようにしよう。 逃げようと馬が動いた場合も、おびえずに立ち止まって馬が落ち着くまで待ってあげよう。「逃げて幸せ」という動物ゆえに、その気持ちを尊重する事がとても大切だ。馬の愛撫の部位でもある、肩付近をなでると馬は親近感や心地よさ感じてくれるだろう。 また、何もせずにリラックスすることはないので、適度なプレッシャーをかけつつも、なでながら頭を下に向ければ楽になることを教えよう。草を食べる姿勢に近いぐらいまで頭が下がると安心感が増す。

顔に触られるのが嫌いな馬でも、頭が下がるようにホルターを引っ張れば、視界に人の手が入ることなく頭を下げることができる。馬場にいて一番幸せだと馬が思うようにリラックスを促すアプローチをものにしてほしい。

 
 そうして馬に近づき引き馬のためのホルターをつける場合も、ホルターはきつく絞めすぎずないことがポイント。顔に触られるのが嫌いな馬でも、頭が下がるようにホルターを引っ張れば、視界に人の手が入ることなく頭を下げることができる。まずはお互いに逃げ場所を確保した上で、メンタルが健全であれば馬は意味もなく襲ってきたりすることはない動物であることをしっかり理解して、馬場にいていちばん幸せだと馬が思うようにリラックスを促すアプローチをものにしてほしい。緊張するほどリラックスする可能性もまた高いのだ。

 上記のこうした行動にはさまざまな要因や馬の性格などが絡むが、そういった専門的な知識をすべて知らずとも、馬との心の通わせ方はちょっとしたきっかけと知識で得られる。今回は、厩舎での近づき方を通して、馬の心理を知り、楽に接する術を自分のものにしてほしい。

● 宮田朋典(みやたとものり)
1971年5月生まれ。米国などで馬の心理学、行動学、装蹄学、ロジックトレーニングを学ぶ。バイオメカニクス理論をベースとして、競走馬、競技馬、セラピーホースなどの調教を行う。
初心者からプロのドレッサージュライダー、さらには競馬ジョッキーにいたる騎乗者を対象としたクリニック指導、競走馬やドレッサージュ馬などの再調教(月に約250頭)や、ウィスパリングを軸としたナチュラルホースマンシップの講習会などを全国各地で開催する。
加藤ステーブル、宮崎ステーブル、社会医療法人 河北医療財団 河北総合病院 研修講師、宮崎ステーブル、足利市グランドポニー所属