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ホースクリニシャン・宮田朋典の共生メソッド04_引き馬の極意

前回は厩舎での馬のちょっとした行動にはどのような心理が働くのかをご紹介した。今回は馬の心理を知った上で信頼関係を築き、その関係ゆえに成り立つ引き馬の極意をお伝えしよう。

Practice 2018.08.28

ホースクリニシャン・宮田朋典の共生メソッド04_引き馬の極意

馬が人を追い越さないことを学んでいると、同じスピードで走る。そして頸を固定せずにバーを認知させれば、信頼している人となら一緒に障害を飛び越えることも可能だ。

ホルターの幅が広いよりも細い方が、馬がプレッシャーとリリースの方向を探しやすい。ここでは馬に指示を理解させやすくするために最初に細いロープを選択。

 

 宮田氏はロープを握った状態で馬と一緒にバーを越えて飛んでいる。「これも、引き馬なんですよ」。人も馬も慣れているからこその技ではない。初心者であっても、同じことができる。引き馬の極意とは、ジョインナップにおいてロープなしで馬がついてきた状態を、ロープがある状態でも維持させることである。「引き馬だからといって、刺激を与えて無理やり引っ張り続けていたのでは、馬が自主的に動いているとはいえない。言うことを聞かないからといって刺激をどんどんエスカレートさせますよね?強制では、よい成果は望めません」。では、どのように信頼関係を築くのか? それを知るためには、これまで紹介してきた共生メソッドをもう一度おさらいしてほしいが、まずは前回の馬へのアプローチ術を理解してほしい。その上で今回の引き馬に挑戦すると、これまでの引き馬に対する見方が大きく変化するはずだ。ポイントは「馬が幸せだと思う状態に導き、馬自身が判断した動くこと」だ。乗馬を思いのままに楽しみたい読者に、調教師になるメソッドをお伝えしたいと考えているわけではない。馬にかかわる以上、馬との円滑なコミュニケーションは何よりも大切だと宮田氏は考えているのだ。

 「馬が自ら判断する」引き馬で重要なのは、ロープが張って引っ張られるから馬は前へ進む、という状態にしないことだ。ロープがゆるんだ状態でも、前に行ったら楽になる感覚を持たせることだ。引っ張って動こうとしないときは、無理に引っ張らず、まずは待ってみよう。ロープの引きを合図にして、感じるプレッシャーについてくるようにさせ、まずは前に一歩進むように促すとでもいおうか。理想的には、ロープを引っ張る合図以外の小さな合図でも人と同じ歩様で歩いてついてくるようにさせるのが引き馬というわけだ。

目の前のものが害を与えないと視覚的に認識させ、信頼している私が促すから大丈夫という関係をつくり上げることが大切だ。

 

 その第一歩として取り入れたいのが、ロープ状の細いホルターを使うこと。帯状の幅のあるホルターよりも馬自身がプレッシャーとリリースの方向をつかみやすい。私たちが何をリクエストしているのかを馬に理解させやすくすることがまずは大切だ。そうして実際にロープを引く時は、まずアゴの下3040cmの部分を持つようにしよう。ロープの3点の結び目が馬の刺激を受けやすい部分にあたるので、少しの動きで馬は明確なメッセージを受け取ることができるようになる。こうすることで僅かな指示で人の歩様に合わせてついてくるようになる。また、引きの合図を受けた馬が勢い余って人を追い越した場合は、下がらせて修正することを忘れずに。走るスピードが人より断然速い馬であっても、人を追い越さないことをきちんと覚えさせることも重要だ。また、逃げて幸せを感じる馬は見慣れないものに対峙すると恐怖で立ちすくんでしまい前へ進まなくなるが、こんな時に無理強いは禁物だ。

 その見慣れないものが害を与えるものではないことを忍耐強く視覚的に認識させ、あなた(馬)が信頼する私(引き手)が促すのであれば大丈夫という信頼関係を馬との間に作り上げるのが、引き馬の極意といえる。

● 宮田朋典(みやたとものり)
1971年5月生まれ。米国などで馬の心理学、行動学、装蹄学、ロジックトレーニングを学ぶ。バイオメカニクス理論をベースとして、競走馬、競技馬、セラピーホースなどの調教を行う。
初心者からプロのドレッサージュライダー、さらには競馬ジョッキーにいたる騎乗者を対象としたクリニック指導、競走馬やドレッサージュ馬などの再調教(月に約250頭)や、ウィスパリングを軸としたナチュラルホースマンシップの講習会などを全国各地で開催する。
加藤ステーブル、宮崎ステーブル、社会医療法人 河北医療財団 河北総合病院 研修講師、宮崎ステーブル、足利市グランドポニー所属