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ウィーン乗馬事情02_レオポルド宮乗馬学校で本格的騎乗レッスンを

レオポルド宮乗馬学校での練習は、生徒の技量を完璧に把握したうえで適確に行なわれていく。ここは屋内練習場なので、雨天でも雨に濡れることなくレッスンに励むことができる。指導者はもちろんベテラン揃いだ。Text:Shozo Izuishi / Photos:Mitsuya T-Max Sada

Lifestyle 2018.12.13

ウィーン乗馬事情02_レオポルド宮乗馬学校で本格的騎乗レッスンを

野外練習場でのオーナーのふたり。写真撮影に合わせて、ぴたりとポーズを決めてくれるところは、さすが。普段からの練習のたまものなのであろう。

 ウィーンにおける乗馬学校の歴史は古い。いや、ウィーンのみならず広くヨーロッパで、いかに巧みに、いかに美しく馬を操るか否かは上流階級の人びとにとって、必須要件であった。

 馬を所有し、飼育することは豊かさの象徴であり、またその馬を駆って領地を見廻ることは特権階級の義務でもあった。他国を旅して新しい情報や商品を取り入れてくるにも、馬と馬術は必要不可欠であっただろう。さらには狩猟の際にはより良きパートナーとなり、戦乱にあってはこの上なく有効な武器ともなったに違いない。

レオポルド宮乗馬学校で足慣らしをしている若き練習生。背景に見える大屋根が厩舎である。厩舎内は美しく、整頓されていて、日頃から大切に馬が扱われている。

 

 紀元前15世紀のアッシリアで、すでに競馬が行われていたという。これは人と馬の交流、つまり馬術の歴史がいかに古いかを示す好例であろう。さらには紀元前8世紀の古代オリンピックにも、当然のように競馬種目が加えられていたのである。

 人類の歴史のなかで、永く「馬を制する者は世界を制する」と考えられてきたのは、疑いの余地がない。馬を制するとは、結局のところ優れた乗馬術に他ならない。そのために古今東西の王侯貴族は、競って馬術練習場(乗馬学校)の建設と保護に力を入れたものである。オーストリアのハプスブルグ家がその例外であったはずがない。 その代表的な一例が、ウィーン市内の一等地に位置するスペイン乗馬学校であることは言うまでもないだろう。

 スペイン乗馬学校は乗馬技術の至宝であり、また国立乗馬学校でもある。しかし今なおオーストリアの各地には、公立私立を問わず数多くの乗馬学校が存在する。もちろんそれは人びとの求めがあってのことなのだ。良家の子女にとって、馬を上手に操ることができるのは、教養の一種とされる。美しい姿勢が保てるとか、ダイエットによろしいとかは、ずっと後の時代になって言い添えられるようになったことで、基本的には教養の一部なのだ。

 かつての日本で、茶道や華道、あるいは琴を習うといったことが礼儀作法のひとつであると考えられたのに似ているかも知れない。と同時に、馬術もまた可能な限り若い年齢からはじめたほうが良い、とされる点でもいわゆる習い事と似ているであろう。事実、ウィーンの乗馬学校でも、若い女性の姿が多いし、少年少女が仔馬で練習している光景も珍しいことではない。

屋内練習場での練習風景。奥の正面に据えられた大きな鏡をライダーも大いに有効活用している。常に鏡を通して自分で馬と自らの様子を確認する。まるでバレエレッスンのように。そして個々の技量に合わせた指導には定評があり、ライダーも日々確かな手応えをつかんでいるようだ。

 

 袖振れ合うも多生の縁とは言うけれど、ハミンガーさんにお会いできたことは、まさにそれであった。ハミンガーさんにお会いしたのは、スペイン乗馬学校においてである。彼はスペイン乗馬学校の、厩務担当官であり、私を案内してくれた方だ。その折、ウィーンでの乗馬学校の話を持ち出したところ、「よく知っているのがひとつある」と言う。

 「よく知っている」とはたしかにその通りであって、その学校とはハミンガーさんとご友人とが共同経営者となっている乗馬学校を指していたのである。 日をあらためて、お伺いさせていただくことになったのも当然であろう。

 ウィーンから南に車を一時間ほど走らせると、やがてレオポルズドルフに着く。わずか一時間少々ではあるけれど、あたりは牧歌的で、木と緑に恵まれて、誰もが背伸びして、深呼吸をしたくなる環境のなかにある。

 正式名称は“ライトシュタール・シュロース・レオポルズドルフ(Reitstall Schloss-Leopoldsdorf)”。日本語に訳すと「レオポルド宮乗馬厩舎」となる。なぜ「厩舎」と呼ばれるのか。ここはむろん乗馬学校でもあるのだけれど、その一方で顧客からの馬を預かり、調教をも行う乗馬クラブでもあるからだ。預託馬もクラブ所有の練習馬も熟達の調教師の手で育てられ、日々トレーニングが行われているその環境は、ライダーにとっても馬にとってもまさに至福のものといえるだろう。

ライトシュタール・シュロース・レオポルズドルフの全景。馬にとっても人にとっても、これ以上はないほど恵まれた田園の中に位置する。

 

 ところでなぜ、シュロース・レオポルズドルフ(レオポルド城)と称されるのか。

 この乗馬学校からもすぐ見える場所に、レオポルド城が建っているからだ。ただし私が訪れた時には城の修復中で、中に入ることはできなかったのだけれど。 レオポルド宮乗馬学校でのカリキュラムは多彩である。ここでは全寮制の乗馬トレーニング・カリキュラムを一例としてご紹介する。生徒は必ずしもオーストリア人ばかりとは限らないので、基本的な語学レッスンの時間もあるという。さらには精神統一と体幹トレーニングのためにヨガも取り入れている。無駄な力を極力排除して、平常心でぶれることなく静かに鞍上におさまる、それが乗馬のスキルアップには何より大切だからだ。

 

 また乗馬学校では、より上手な騎手の技を見ることも大切で、見学の時間も含まれている。そして時と場合によってはスペイン乗馬学校での見学も予定されているという。

 ともあれ基礎体力をまずつけて、より柔軟な身体に仕上げるために、水泳やストレッチ体操などのカリキュラムも組み込まれている。

 レオポルド宮乗馬学校での一日は、ジョギングからはじまる。皮肉なことではあるけれど、馬に上手に乗るには、馬の筋力アップの前にまず自身の足腰の筋肉を鍛えることが必要である。ジョギングの後は体操で全身をほぐす。これらのウォーミングアップを午前10時までに終了する。午前中は主として乗馬の見学時間である。昼食をはさんで、午後はフィットネス体操。

 ついでながらレオポルド宮乗馬厩舎には、カフェが併設されていて、ゆったりとした空間で騎乗の合い間に軽食をとることもできる。 そして午後3時になると、やっと実際に馬を使っての練習に入る。先生のなかにはオリンピック出場者もいるほどで、その教育レベルは高い。ただし一人ひとりの生徒の技術力に合わせての指導が行われる。従って授業料も生徒の技術によって若干変わってくるという。

 夜はもちろん自由時間だが、生徒たちはホイリゲ(ワイン居酒屋)で大いに楽しんだりするとのこと。もし希望者があれば、日本人留学生も歓迎してくれる。事実、今も生徒のなかに日本人の生徒がいるとのことである。

「Reitstall Schloss-Leopoldsdorf Schlossgasse」 2 A-2333 Leopoldsdorf AUSTRIA Tel : 0043/676 620 2832

www.reitsportzentrum.co.at/schloss-leopoldsdorf.html