ヴァーレンドルフで馬の町らしさが感じられるところはどこか、と馬業界の人に尋ねたところ、「それは僕の家だね」と返答があった。それではと彼の家にお邪魔することにした。
DOKRからほど近い場所に彼、マーティン・フィンク氏の家がある。瀟洒な構えの家だが、門から入るととくに変わったところがあるように見えないが、そのまま裏に回るとそこには屋外馬場があり、この屋外馬場は家に組み込まれた馬房と繋がっているのだ。つまり、厩舎と家が合体したようなつくり。馬房の上にも部屋がある。この2階の部屋なら、いつも自分の下には馬がいることを感じながら暮らすことができるわけで、その気配は24時間伝わってくる。馬好きには堪えられない環境であろう。もちろん馬房とリビングはドア1枚で隔てられているだけなので、馬に何かあってもドアを開ければ様子をうかがうことができるのも心強いかぎりだ。現在4頭の馬がここで暮らしている。
マーティンの案内でさらに奥に進むとそこには馬場と広々とした放牧場がある。この地域の住人が自由に使える共有スペースだという。この地区のすべての家には馬房や厩舎をあり、この地区全体がホースコミュニティを形成している。
「ドイツのどこを探しても、こんな環境は見つからない。僕たち夫婦も馬を中心においたこの環境が気に入ってこの家を買ったんだ」
マーティンは乗用馬の調教師で、妻も馬に関連した仕事をしている。
個人宅に併設されている外馬場の先には、このエリアの厩舎付き住宅に住む人たちが共同で使える馬場と放牧場がある。馬好きにとっては至れり尽くせりのロケーションだ。
さらに歩を進めると大きな厩舎が現れる。この厩舎も家とつながっている。オーナーは南アフリカで家具商をしていたギュンター・ハートマン氏。この場所はもともと馬のリハビリ施設だったのを買い受けて厩舎と自宅に作り替えたという。夫婦とも、あまり馬に乗ることはないが馬が好きで、いつか馬と暮らしたいと思っていたのだ。そこで、実際に馬に乗るのはマーティンのようなプロになる。グランプリ馬を持っているからマーティンにとってもトレーニングに最適だ。近隣で持ちつ持たれつ協力し合うのもこの町ならではの馬が取り結ぶ縁。ハートマン氏は今のこの環境が大いに気に入り、ここで暮らす感想をこのように表現した。
「夢に見たような場所で暮らすことができて本当に幸せだ」と。
この地域をさらに散策していると、軍の馬術施設に遭遇した。もちろんセキュリティは厳重だが、たまたまこの施設の責任者の弟という人がこの地区に住んでおり、その方が連絡を取ってくれたことで見学することが許された。
軍の施設であるからここで働く人々は当然軍から給料を支給され、その上、毎日馬術三昧という恵まれた環境にある。また、ここに所属すればどのような大会からも招待され出場が可能だという。ただし、生徒としての在籍は2年が限度。そのあとは多くが軍を離れ馬に関わる仕事に就くという。いずれにせよ恵まれた環境には違いない。
■ヴァーレンドルフ旧市街観光ガイド
橋を渡って向かい側が旧市街の始まり。趣のある古い建築物が多く、広場を中心に長さ1キロほどの街並みだが、街歩きには最適だ。
これまで紹介してきたのはヴァーレンドルフの中でも、馬産業のために新しく開発された地域。馬、馬、馬の世界から一転して、中世から続く小さいながら楽しいヴァーレンドルフの街並みを最後に紹介しよう。
市街から石橋を渡ると旧市街に入る。まさに石の文化を感じさせる建物群。中世から残るという建物は一つひとつが個性的ながら全体が同じ色調で揃えられている。これは悠久の時間の成せる技。時と共にほどよく色褪せていくことでこの柔らかな統一感が生み出された。またこの地域には観光客を意識したレストランや店舗も多い。
多くのレストランやカフェでは外にテーブルと椅子を出し、外の空気を楽しめる。北ドイツで太陽を浴びられる時期は限られている。秋の一日、僥倖のような暖かな日に当たり、多くの人が外のテーブルで大ぶりのジョッキーでビールを楽しんでいた。
ヴァーレンドルフは間違いなく馬の町だが、こうしてショッピングやグルメを楽しめる。馬好きならいつか行きたい町のひとつとして候補にしてはどうだろう。行くならば「スタリオンパレード」の開催される9月から10月あたりの時期がいちばんのお勧めであることはいうまでもない。