Follow us

駈け抜けるスコットランドの誇り_町を守り抜いた、ローダーのコモン・ライディング。

350を越える人馬が一堂に会し、町の旗を高くかざしたコーネットを先頭に街中を行進し、スコットランドの丘を駈け上がるコモン・ライディング。ヨーロッパでも規模大大きなこの祭りをレポートします。photos:Junichi Kikuchi text:Aya Nomura

Lifestyle 2019.02.26

駈け抜けるスコットランドの誇り_町を守り抜いた、ローダーのコモン・ライディング。

スコットランドの南に位置するボーダー地方で17世紀から年に一度行われている馬イベント“コモン・ライディング”。この地でもっとも古い町ローダーで開催されるコモン・ライディングはその歴史においても規模においてもさまに最大のもの。もともとイングランドからの侵略と近隣の町からの不法侵入を防ぐ目的で境界線パトロールがはじまり。そこにはスコットランドに生きる人々の高い誇りが息づいている。

勇壮に果敢に、誇り高く

 スコットランドの南に位置するボーダー地方では、長きにわたりコモン・ライディングと呼ばれる独自の伝統が残るイベントが毎年開催されている。その中でも、最も歴史が古い町の一つがローダーだ。そこではヨーロッパ最大と言われる300頭以上もの馬が一堂に会し、コモン・ライディングが開催される、まさに聖地のような存在だ。

ケーンと呼ばれる石を積み上げた台は、もともとは境界線を示したもの。このイベント最大の見せ場は、300を越える人馬が次々と丘の頂を目指して駈け上がるシーン。怒濤の迫力と人馬の美しさに思わず目を奪われる。

 

 コモン・ライディングはもともと13から14世紀に、自分たちの境界線をイングランド人から守るため、そして近隣の町からの不法侵入を防ぐために、境界線付近を馬でパトロールしたところから始まる。争いがなくなった後も、地元の伝説や歴史、伝統を引き継ぐための行事として長年にわたり執り行われている。記録に残るローダーでのもっとも古い開催年は1670年。実際はもっと以前から開催されていた可能性もあるとされる、かなり古い歴史が刻まれたイベントである。馬に関わるイベントはボーダー地方の11の町で行われているが、コモン・ライディングと名のつく由緒正しい伝統をもつものは、このローダーとホーイックとセルカークの3つの町で開催されるものだけだ。

町の旗を高くかざして、300を越える人馬の先頭に立って行進する男性はコーネットと呼ばれ、このイベントで重要な役割を果たす。選考委員会で秘密裏に選ばれ1年間に渡って町の親善大使の役割も担うだけに、コーネットに選ばれるというのは本人ばかりではなく家族にとっても大きな名誉となる。

 

 この伝統行事で重要な役割を果たすのが、コーネットと呼ばれる町を代表する男性である。彼は、選考委員会によって秘密裏に毎年決定され、選ばれると一年間の約束で町の行事に参加したり、町のシンボルのような存在になる。
 コーネットは大抵において20代半ばであり、未婚であることが条件となっている。また誠実な人柄であること、馬乗りとして優れていることも選考されるポイントだ。コーネットに選ばれた本人、そして家族にとっては大変な栄誉だ。
「選ばれて純粋に嬉しかった。こんなに素晴らしい体験ができるなんて言葉では表しきれない!」と今年度のコーネットに指名されたマークは興奮した面持ちで語ってくれた。今年4月に選考委員会から指名され、当日まであっという間だったという。
 さてライディング・ディとされるイベントの当日、コーネットを含む騎手たちは、朝早くから準備を始めた。朝もやが残るうちから町全体もざわざわと動き始める。町の中心に佇むタウンホールの前で今年のコーネットであるマーク・アレキサンダーに旗が渡され、皆に祝福されながら乗馬のマーチが始まる。コーネットが乗る馬は葦毛というのが昔からの決まりごとだ。歩道脇には溢れんばかりの人々が詰めかけ口々に声をかける。「Safe out, Safe in」気をつけて行ってくるんだ、そして無事に戻ってくるようにと。
 2009年の参加数はなんと361頭にのぼったという。これはヨーロッパでも最大規模の乗馬イベント。300頭以上もの馬の迫力と猛々しさを目の当たりにできる機会は貴重なものだ。

ローダーのタウンホール前でその年のコーネットに選ばれた男性に町の旗を渡すところからコモン・ライディングはスタートする。これまでの戦渦で命を失った人々に黙祷を捧げ、行進がはじまる。事前に登録すれば誰もがこの祭りに参加できる。もちろん日本からでも大丈夫だ(問い合わせ先 tel:0044 (0) 1835 863170)

 

 いよいよ行進が始まる。コーネットのマークは先頭の中央に控え、ローダーの大きな旗を常に右手に構える。向かって左に控えるのが前年度にコーネットだったジョン・スレッドゴール。彼はコーネットになる前の年に、出火した自動車から母子を救出して一躍町のヒーローとなった人物だ。フロントに並んだ3人の後ろには、ローダーの人々はもちろんボーダー地方の他の町からの参加者も並ぶ。ボーダー地方の参加者は必ずと言っていいほど、胸元にエンブレムを付ける。ローダーのシンボルカラーは青と黄色。11の町はそれぞれ配色が決まっているため、どの町からやってきたのかはエンブレムの色で一目瞭然というわけだ。
 300以上の人馬の集団はゆっくりと通りを闊歩して、町の外れにある広い高原へとたどり着く。当イベント最大の見せ場は、すべての人馬が次々とギャロップで丘を駈け上がっていく圧巻の一幕だ。美しいけれど力強い。その風景に人々は魅了され、しばし応援することも忘れて見入ってしまう。騎手たちも観客たちも一体となって、この瞬間のために参加していると言っても過言ではない。それほど、喜びと自信がみなぎった様子で駈け上がっていくのだ。