Follow us

アシエンダを巡るメキシコ馬紀行②_アシエンダ・デ・サンアントニオ

花と緑と豊かな水に恵まれたアシエンダ・リゾート「アシエンダ・デ・サンアントニオ」。心と身体に優しいオーガニックな時間がゆったりと流れるここでは、その時間に合わせた優雅な乗馬を満喫したい。photos:Yasuo Konishi

Lifestyle 2019.06.14

アシエンダを巡るメキシコ馬紀行②_アシエンダ・デ・サンアントニオ

ヨーロッパとメキシコの感性、この2つを絶妙なバランスで組み合わせた佇まいが魅力の「アシエンダ・デ・サンアントニオ」。広大な園内を馬で行くトレッキングに少し疲れを感じ始めた頃、湖の畔の木陰にピクニックランチが用意されている。ピクニックといってもそのメニューは本格的。そんなきめ細やかなサービスが、究極のラグジュアリーを生み出している。

世俗の垢を払い落とし、無垢な心と身体を再生させる場所

メキシコにはピンクに彩られた建造物はいたるところで見受けられる。ここ「アシエンダ・デ・サンアンジェロ」の外壁もピンクだが気品を感じさせるその趣は他とは異なりエレガントだ。欧州とメキシコの美意識を巧みに組み合わせたこのリゾートにはラグジュアリーゆえの心地よさとエキゾチックゆえのときめきが理ぞとライフへの期待感として息づいている。

 メキシコ中央西部の山間部に位置する、まさに隠れ里という趣のアシエンダ・デ・サンアントニオ。そのパステルピンクの館に一歩足を踏み入れるといたるところに花と緑があふれている。美しい中庭と、みごとに整えられた庭園、そして隆々と背後にそびえるダイナミックな活火山。こうした舞台装置が繊細にそしてダイナミックに絡み合ったロケーションの素晴らしさに加え、スタッフの心温まるホスピタリティに癒やされていると、時の経つことさえ忘れてしまいそうだ。まさにアシエンダの究極の形がここにある。
 総じてアシエンダのロケーションは交通の便に恵まれているとは言い難い。しかし、それはアシエンダの魅力を損なうものではなく、逆にその価値をいっそう高めてさえいる。世俗のホコリを払い、いったん心を無にする、そんな儀式のためにもその距離と時間は必要なものなのかも知れない。そんなアシエンダの代表格の一つがこのアシエンダ・デ・サンアントニオだ。

 

出合うものすべてが美しい、メキシコの桃源郷

家具やカーペット、壁紙など室内のインテリアはメキシコの伝統を感じさせる美意識で統一されている。すべての客室が200㎡以上という広さも驚きだが、このアシエンダの居心地の良さはそのメキシコならではの空間デザインにあることはいうまでもない。

 メキシコ西部に位置するコリマ州の代表的な活火山“ヴォルカン・デ・フエゴ”。この火の山を目印にして車を走らせる。この山が視界にあることを確かめながら山中をひたすら車で進んでゆく。本当にこんな山間に目指す場所はあるのだろうかという不安が頭をよぎりはじめる頃、やっと目立たないひっそりと佇むその入り口にたどりついた。
 そこから林を抜けると、広々とした空間が開け2階建てのピンク色の建物が現れる。メキシコのピンク色に見慣れた目でも、その品のよさが印象的だ。ウェルカムドリンクでひと息つき、中庭へと足を向けた瞬間、その豊かな緑に圧倒される。長い道中の間、乾いた大地とサボテンにさらされてきた瞳がさまざまな濃淡の緑と南国らしい鮮やかな色の花によって癒されるのを感じる。その瞬間、これから次々と訪れるであろうすべての出合いに期待が膨らむ。そしてそれは裏切られることなく、まさに次なる驚きへとつながっていった。

 

ヨーロッパとメキシコの感性を極上のラグジュアリーに昇華して

西洋式の幾何学的な庭園デザインとメキシコならではの植物分布がミックスされた庭園。

アシエンダ・デ・サンアントニオは比較的歴史の浅いアシエンダだ。ドイツ人のドン・アーノルド・ヴォーゲルがメキシコ人の妻と共にこの地にコーヒー農園を作ったのは20世紀初頭のこと。1913年の火の山の噴火にも、メキシコ革命にも耐えたアシエンダであったが、1926年に主のアーノルドが亡くなり、その死とともに他のアシエンダと同じく凋落の一途をたどることとなった。
 そして、80年代にイギリスの大資本家、ジェームズ・ゴールドスミスに所有権が移るに至り、新たに命を吹き込まれることとなる。ゴールドスミス氏は大胆なリニューアルを計画し、フランス人、メキシコ人、アメリカ人などの建築家やインテリアデザイナーを雇用する。メキシコらしさを活かしながらヨーロッパのセンスを取り入れた邸宅風の建物に、メキシコを感じさせる調度品を組み合わせ、200㎡を越える客室はすべてスイートにするなど徹底したラグジュアリー感を打ち出した。
 周囲の自然との調和に気を配った庭園、30メートルの本格的なプール、闘牛場、テニスコートなどを備えた本格的なリゾートとして生まれ変わるために10年の期間を要し、リノベーションは2000年に完了しこのアシエンダがオープンした。

 

毎日採りたての野菜がテーブルに上る喜び

このアシエンダの食糧自給率は何と80%に及ぶという。つねに収穫があるようにさまざまな野菜を植えている有機農園には採りたて野菜やくだものが年間を通して豊かに実っている。オーガニック野菜のサラダ、自家製チーズ、フィレ・ミニヨンチリソース添えなどなど、自慢のメニューはすべて安全でフレッシュな食材から生み出されている。

 このアシエンダに滞在していて気がつくのが、常に水の流れる音が聞こえていること。乾いた印象のメキシコでは、湧き続ける水はまさに豊かさの象徴でもある。その水音がヒーリング・ミュージックのように途切れることなく流れ続けるここは、まさに特別に選ばれた場所であることをさり気なく主張している。また、水のせせらぎが耳に残るほど、あたりが静寂に包まれていることの証でもあるようだ。
「火の山」などの借景を活かした景観美、インテリアの細部までの心配りなど、視覚に訴える演出がたっぷりと用意されているサンアントニオ。それとともに特筆に値するのが食へのこだわりだ。レストランで供する食材の80パーセントが自給自足の有機野菜なのだ。加工品のチーズも自家製であり、肉類もその多くを敷地内で飼育している家畜から得ている。実際に畑を訪れてみれば、そのみずみずしく豊かな実りを目の当たりにできる。この畑からつねに20から25種類の野菜が収穫できるように計画的に栽培しているという。

 

ライド&ピクニックランチの至福の時間

アシエンダに隣接する、ゴールドスミス氏所有の牧場エル・ヤバリに車で向かうと、そこには2500ヘクタールのオーガニック農園とともに厩舎が置かれている。保護区となっているここには宿泊客用に40頭の乗用馬が常に用意されている。馬種は外乗に最適なクォーターホースが中心となっている。

 そして最後になったが、やはりアシエンダ・デ・サンアンジェロでの乗馬である。もちろんここでは乗馬も大いに楽しめる。アシエンダを離れ、車に乗って数分でゴールドスミス氏所有の牧場エル・ヤバリに入っていく。2500ヘクタールの保護区にはオーガニック農園とともに厩舎が置かれている。ここには宿泊客用に40頭の乗用馬が常に用意されている。馬種はクォーターホースが中心だ。
 馬場でのトレーニングも可能だが、せっかくの広大な敷地を前にして外乗に出ないのはもったいない。東京23区でいえば品川区より広い敷地は起伏に富み、サボテンの生える荒野あり、緑豊かな竹林、小川に滝までも揃っている。
 馬の背に乗る前に、幅広の帽子、せっかくなのでソンブレロを用意して強烈な日差しを避ける準備をおすすめしたい。また空気は比較的乾燥しているので、日焼け対策も考慮して長袖の上着を着用したいもの。それらの準備ができたら、さあ出発しよう。しばらくの間メキシコの大地を堪能し、その強い日差しが辛くなってきたころ、湖を臨む広々とした野原に誘導される。そして、木陰に向かい馬から降りると、なんとクッションに囲まれたテーブルの上にはピクニック・ランチが用意されている。アシエンダのスタッフはゲストが腰を下ろすのを機にテーブルから離れる。木陰に吹く風がほてりを冷まし、冷たい飲み物で喉をうるおす。食事はスープ、サラダ、肉数種、トルティージャ、チーズにフルーツ、デザートのブラウニーとテーブルの上に満載だ。
 心憎いばかりの気配り。ゲストが望むものをゲストが声に出す前に差し出すという、究極のホスピタリティが隅々まで息づいている。

 

アシエンダ・デ・サンアントニオ Hacienda de San Antonio

Municipio de Comala, Colima, Mexico
tel.+52(312)316-0300
fax +52(312)316-0301
www.haciendadesanantonio.com