
生活の中に馬文化が深く根付いているコッツウォルズでは、クルマと馬がストレスを抱えることなく共存している。ドライバーとライダーが車道で立ち話、そんな光景も当たり前のように散見される。
そんなコッツウォルズは、EQUUSにとってもぜひ訪れてみたい憧れの街の一つであった。その理由は「馬」。この「馬」というキーワードでもこの地を切り取ってみると、その大いなる魅力が浮き彫りになってくる。“羊の丘”を意味するコッツウォルズだが、ここは乗馬やハンティング、ポロも盛んに行われているまさに「馬の町」なのである。今回の取材ではそのコッツウォルズの中でもスタントンという地にスポットを当てた。英国内ばかりか今や世界中原から観光客が訪れるコッツウォルズのなかでは、比較的まだ観光地化されていない地域だ。昔ながらの石造りの農家が穏やかな自然の中にゆったりと点在し、村全体にどこか静謐感が漂うこの辺りであれば、のんびりと馬で散策することも夢ではない。滞在するのは、かつてこの辺りを治めていた英国貴族が所有していたマナーハウス。ロンドンと自らの所領地を行き来していた貴族たちのカントリーハウスであったマナーハウスに泊まって、コッツウォルズならではの乗馬を日がな一日のんびりと堪能してみたい。

昔ながらの石造りの農家が穏やかな自然の中にゆったりと点在し、村全体にどこか静謐感が漂うこの辺りであれば、のんびりと馬で散策することも夢ではない。
馬と一緒に、静謐な雰囲気が漂う美しい村を散策する、そんな夢のような一日が始まる
私たちが泊まったのは、アットホームでコージーな雰囲気が漂うバックランド・マナー。5年ほど前から、ホテルのポーターが飼っているラブラドールのマックがホテルに駐在し、トレードマークとなっている。まさにイギリスのマナーハウスらしさを目のあたりにして、旅行気分も盛り上がる。
翌朝、マナーハウスを出発し、近郊の乗馬クラブで馬を借りる。この地を訪れて初めての乗馬はやはり少し緊張する。実は昨晩、就寝前に頭の中で、馬に乗った自分の姿をシミュレーションしてみた。そうすることで、実際に騎乗した時の楽しみが何倍にも広がることがよくあるのだ。想像どおりの出来事、想像以上に美しい風景……、それらはあざやかに素晴らしい記憶として心に刻み込まれるはずだ。
そしてまずは、今日一日を一緒に過ごすパートナーへの挨拶から。初めてのパートナーでも、今日という時間を共有する大切なパートナーだ。最初のうちはお互いの力量も含めて探り合いという感じもしたが、心地よく乗るためのコミュニケーションを欠かさないような気遣いを怠らないことが大切だ。どうやら相性はよさそう。自分よりも町のことを知っている彼の名は「ペガサス」という。

英国では馬が車道を利用することは基本的に認められている。しかも車より馬が優先されるのが普通だ。ただコッツウォルズのような観光名所では大きなバスが車道をふさいでしまいしばしば馬が迂回しなければならないこともある。
車道では基本的に馬が優先されるが、途中、観光バスが通りかかって、やむを得ず馬が草むらに乗り上げる場面も。権利を主張し合うより、まずは譲り合い、そんな気持ちの持ちようがコッツウォルズにはふさわしい。特に心地よい季節の5~6、7月あたりは、花々や青々とした緑を横目にしながら心地よいライディングを堪能できるのだからなおさらだ。またウォーキング専用の道があるのもイギリスらしい。「パブリック・ブライドルウェイ」という標識のある場所は人と馬が歩ける道という意味だ。舗装されていない小道だが、馬にとっても人にとっても思い切り自由な気分を楽しめるナチュラルな道だ。

ホーストレッキングを思いっきり堪能するための専用の道が用意されているのも英国らしい。「パブリック・ブライドルウェイ」という名前の標識で指定された場所は、人と馬が自由に散策できる道だ。この地方ならではの四季折々の花々が咲き乱れる美しい風景が楽しめるここは、ぜひ訪れたい場所。その美しさは心の奥に一生涯刻み込まれるはずだ。
この地に生まれ育った人間のように、何の気負いも持たずに馬に乗り、この地ならではの芳しい光と、風と、大地の香りを味わい尽くす。そんな珠玉の幸福感を馬上の散策で楽しんでいると、あたかも白日夢の中に溶け込んだような陶酔感に包まれる。コッツウォルズにはそんな懐の深さがいたるところに息づいているようだ。