馬好きには堪えられない、乗馬パラダイス
ブダペストから乗馬を楽しみにやってきた女性たち。夏の気配がまだ色濃く残っていたこの季節、乗馬を楽しむのはいつも夕方からという。ゆったりと過ごしたい週末はそのままホテルに宿泊して翌朝の乗馬を満喫してからブダペストへ帰るという。
ハンガリー観光の目玉は、乗馬ツーリズム
手元にハンガリー政府観光局から提供された“Equestrian centres, riding schools on horseback in Hungary”と題された英語版の一冊の冊子がある。発行はThe Hungarian Equestrian Tourism Association、つまりハンガリーには乗馬を主目的とした旅を普及するための機関があり、そこでハンガリーの乗馬クラブや乗馬リゾート、馬のショーなどを行う施設を紹介するこうした冊子を発行していることを、まずお知らせしたい。そして、この冊子にはハンガリー全土の約160の施設が掲載されているが、これはハンガリーのすべてではない。まだまだ、ここには掲載されてない多くの乗馬施設がある。
ブダペストからわずか20分、緑豊かな乗馬クラブ_ペトネハージ・ホース・ライディング・ランチ
ホテルの向かいに位置する“ペトネハージ・ホース・ライディング・ランチ”。“ペトネハージ・クラブ・ホテル”とは正確に言うなら別経営だが、この2つが1つに融合されてこの魅力的な施設が出来上がっている。現在ここには35頭の馬が飼育されているがクラブ馬は11頭。馬の健康管理はかなり徹底して行われている。
ヨーロッパを見渡せば乗馬が盛んな国はいくつもあるだろう。しかし、旅の目的としてこれほど乗馬を前面に押し出している国は限られているのではないだろうか。ライダーにとってのハンガリーはパラダイスだと言い切ってしまおう。
そこで、この冊子を参考に乗馬のできる施設の代表的なものをまずはいくつか紹介していこう。とはいうもののまず紹介したい施設はこの冊子には掲載されていない。首都ブダペストから車で20分ほどの郊外にある「ペトネハージ・クラブ・ホテル」が最初にご紹介する乗馬スポットだ。ハンガリーがいかにホースオリエンテッドといっても、首都の真ん中にはさすがに馬場はない。しかし、中心部からほんの少し行けば豊かな緑が広がっている。このホテルは首都からもっとも近く乗馬とともにリゾートを楽しめる施設なのだ。
Petneházy Club Hotel ペトネハージ・クラブ・ホテル
近くのアメリカンスクールやフレンチスクールに通う子どもたちをはじめ、定期的にクラブを訪れる子どもの数も相当数いる。クラブには4頭のミニポニーがいて子どもたちが馬に親しむ大切な役割を担っている。
宿泊施設は長期滞在が可能な戸建てのキッチンとサウナがついた15戸のコテージ、そしてダブルベッドを備え、すべてに広々としたバルコニーがついている客室が本館に77室ある。そして、このコテージはタイムシェアと呼ばれる方式をとっていて、ひとつひとつのコテージに所有者があり、使わない日を一般のゲストに貸しているのだ。このホテルの施設としては室内、室外のプール、テニスコート、ゴルフの練習場を完備している。この地の夏の暑さはヨーロッパでも広く知られているが、そんな気候のこともあってかハンガリーの人たちはプールをとても好むようだ。これは子どもに限ったことではない。ハンガリーの夏の暑さはよく知られるが、近年の温暖化はそれに拍車をかけている。プールを備えていることがリゾートとして必要不可欠なのだ。
馬を大切にし、馬に触れあえる環境
自馬を持つ子どもたちもかなりの人数だ。ブダペストから車で20分というロケーションにあるここは、気軽に来られるという地の利もあっていつも大製の子どもたちの笑い声が絶えない。
馬場と厩舎は道を隔ててホテルの斜め向かいに位置する。その名もペトネハージ・ホース・ライディング・ランチ。正確にいえば、ホテルと乗馬クラブは別の経営だが、乗馬を目的に宿泊するゲストが多く、ホテルで乗馬をリクエストすれば、当然このペトネハージ・カントリー・クラブに案内される。また、ホテルの経営者が乗馬好きなことからも、この立地条件を選んだというからそもそもが乗馬クラブありきのホテルなのだ。
このクラブの特徴はライダーがホテルのゲストばかりではないということだ。ブダペスト近郊という地の利もあって、首都から通ってくる会員も多く、その持ち馬を預かってケアをしている。私たちが訪れた日もブダペストに住む2人の女性が乗馬を楽しんでいた。自馬をクラブに預けて休日になると馬に会いに来るという。まだ夏の余韻が色濃く残っている季節ということもあって、太陽が大分西に傾いた頃、馬房から馬を引き出してゆったりと乗馬を楽しんでいた。こうした馬の所有者の大半がブダペストでビジネスを行っている外国人だという。ハンガリーにおいても馬を所有し、クラブに預けることは経済的に余裕のある層の楽しみなのだ。クラブの近くにはアメリカンスクールやフレンチスクールがあり、その生徒たちが馬を所有し、クラブの会員となる例もあるようだ。このクラブで自他共に認めるほど乗馬スキルが高いのは私たちに華麗なジャンプを披露してくれた12歳の少女だ。彼女もまた、アメリカンスクールの生徒だ。
乗馬スキルがクラブ内で一番高いと、自他共に認められている12歳の少女が魅せてくれた華麗なジャンプ。子どもたちの自主的なやる気を引き出すことに長けているここでは、このさきのハンガリー馬術界を支えていく人材が次々と生まれてくるだろう。
厩舎には35頭の馬がいるが、クラブの所有は11頭でうち4頭がミニポニーだ。このクラブのインストラクターで案内役を務めてくれたキンカ・ヤーノシュ・クリスティーナさんは「馬に与える飼料はとても大切です。ほかのクラブでは乾草に栄養を補うということで麦を混ぜていますが、ここでは乾草しかあげていません。その方が馬の体のためにはいいのです」と馬を大切にしていることが、その言葉の端々から感じられた。
Petneházy Country Club
H-1029 Budapest, Feketefej u. 2-4.
Tel. + 36-1-391-8010
https://petnehazy-clubhotel.hu/hotel/english/
馬車競技の世界チャンピオンが経営_ラーザール・ホースパーク
馬車での園内周遊はファミリーに大人気だ。また、目を見張るような演技が次々と繰り出されるホースショーの一コマでは、ハンガリーで絶大な人気のあるオーストリア皇妃、エリザベートを模した演技が。
ブダペストから東に1時間弱のドモニヴォルジにラーザール・ホースパークがある。この施設名の「ラーザール」と聞けばハンガリーの多くの人がラーザール兄弟を思い浮かべる。ヴィルモシュとゾルターンのラーザール兄弟はハンガリー乗馬界の立役者だ。馬車競技(ドライビング)でこれまでに何度も世界チャンピオンの栄誉に浴し、国内では並ぶものない実力の持ち主として、多くの国民から愛され支持されている。
ちなみに兄のヴィルモシュは2頭立てコーチ・ドライビングで7回、弟のゾルターンは2頭立てドライビングで4回と4頭立てドライビング競技で2回、世界チャンピオンの栄冠を手にしている。
つまり、この施設はその名の通り、ドライビングにおける世界チャンピオンの兄弟が経営に参加しており、ハンガリーでラーザールと聞けばすぐに「馬」が連想されるように、ここはまさに馬に関する高度なテクニックが学べる「馬のテーマパーク」だ。
ハンガリーを感じる馬のエンタテインメント
乗馬はもちろん、日本ではなかなか学ぶ機会がない兄弟お得意のドライビングの本格的なレッスンも受けることができる。その一方で子どものためのポニーライディングや馬車に乗って敷地内の周遊など、馬のビギナーや乗馬経験のない人でも充分に楽しめる、多彩な乗馬メニューが用意されている。
そんな中でもっとも人気が高いのは、ハンガリーの伝統のホースショーだ。青い装束に身を固めた馬飼いたちがみごとに馬を制し、騎馬民族が脈々と受け継いできた独特のアクロバティックな技を繰り出していく。アトラクションとしての面白さはもちろんのこと、ハンガリーのルーツが騎馬民族であることをハンガリー人自身が大切にしていることがこのショーからも伝わってくる。これはかつてハンガリーの大平原で実際に行われていた馬術訓練のダイジェスト版なのだ。いうなれば戦国時代の騎馬装束で当時の戦の訓練を洗練させて披露しているようなもの。このようなショーをハンガリーのあちこちで見ることができるが、ここのショーは、その技の切れと洗練度で一頭地抜いている印象だ。
かつては宿泊施設がないのが玉に瑕であったが、現在では宿泊用の建物もできあがり、国内だけでなく海外からも広くゲストを迎えられるようになった。ここでは結婚式や宴会、企業の研修や運動会などさまざまなイベントが行われており、その多くのイベントに馬が絡む演出が施されており、ハンガリー人にとって馬がいかに身近であるかを改めて思い知らされた。かつて闘いの道具であった馬がただ単にそれだけの存在ではなく、馬を馴致し、馬と共に生き、馬からたくさんの知恵を学ぶことによって、人が生きていく上でどれほど多くのものを得るか、ハンガリーの人々はその長い歴史の中で学び取っているのだろう。
Lázár Lovaspark
H-2182 Domonyvölgy–Feny u. 47.
Tel.+36-28/576-510
https://lazarlovaspark.hu/en/