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理想の馬と出会う、乗馬大国ハンガリーの2つの生産・育成牧場 ①_バーボルナ国立スタッド・ファーム

馬の育成に昔から力を入れてきたハンガリーでは、200年以上も前に生まれたホースファームがハンガリー馬の素晴らしさを世界に知らしめている。ここでは2回にわたって代表的なホースファーム現状をリポート。ここでは「バーボルナ国立スタッド・ファーム」をまずご紹介。Photos:Yasuo Konishi

Lifestyle 2019.12.06

理想の馬と出会う、乗馬大国ハンガリーの2つの生産・育成牧場 ①_バーボルナ国立スタッド・ファーム

厩舎から解放されて放牧場へと駈ける馬たち。やや細めの引き締まったシャギア・アラブの美しい馬体が朝日に煌めいて、その躍動感をさらに際立たせる。

持久力に富む、シャギア・アラブの血統を守る

山吹色のあざやかな壁と白馬のコントラストは、まさに典雅な趣を醸し出す。競技も含めて馬車文化への関心が高いハンガリーでは、現在でもさまざまなタイプの馬車が活躍している。御する人のクラシカルかつ繊細な征服にも注目。

なぜハンガリーではこれほどに「馬」を前面に押し出したビジネスが成立し得るのか。どのような土壌がそれを可能としているのか、各地を巡るうちにそんな疑問が自ずとわいてきた。
ハンガリーの中心をなす民族がマジャルであり、そのマジャルが騎馬民族だったから現在ハンガリーが「馬の国」として存在し得るのだ、というのが大方の人々が想像しうる筋書きであろうが、それは少々ロマンチックすぎて現実離れの感がある。馬が戦場から消え交通の中心から外れた今でもこの国が「馬の国」として成立し得るには、それを成らしめる人々のたゆまぬ努力がどこかで行われていたからに他ならないだろう。その解答のひとつがホースファームの存在ではないだろうか。
ブダペストから西に車で約1時間の場所に国立のホースファーム「バーボルナ国立スタッド・ファーム」がある。創業は1789年。当時の馬担当大佐がハンガリーでの馬の育成の必要性を進言したことによって、ヨーゼフ2世がハンガリーの馬を軍に供給する目的で、この地を買い上げ、ホースファームを設営したのがその始まりだという。その後、1809年のジェールの戦いでナポレオン軍が撤退する際、厩舎を焼き払ったというエピソードが残っている。数年後、再建されたが、今では、ナポレオン軍が優良な馬の生産を止めようとしたほどバーボルナの馬は優良だったいう証明としてこのエピソードが語られている。

 

シャギア・アラブ種はハンガリーの独自種

インテリアが美しい室内競技場。ここでは舞踏会なども開催されるという。そして歴史を感じさせる優雅な庭園とメインビルディング。このホースファームはどこから見ても一幅の絵になるように設計されている。まさに一見の価値ありだ。

このホースファームの最大の特徴は、ほぼアラブ種のみを生産・生育していることだ。中でもシャギア・アラブ種はハンガリーの独自種として、このホースファームの名を高めている。この種の誕生に一人の男のエピソードが残っている。1836年にシャギア種の種牡馬がシリアから運ばれてきた。今にして思えば、これこそ現在にいたるまでバーボルナの存在を確固たるものにしてきた理由であり、さらにはハンガリーの馬の生産が世界に認められるきっかけとなる画期的な出来事だったわけだが、このときシリアから種牡馬だけでなく、馬に魅入られた男までがバーボルナに辿り着いてその門を叩いた。馬への情熱が認められ厩舎の舎監に落ち着いたという。
その後、革命や戦争など歴史の荒波をくぐり抜け、第2次大戦以降、バーボルナは国立のホースファームとなる。

 

昭和天皇の御料馬となった、シャギア・アラブ

かつて御料馬として昭和天皇に献上されたシャギア・アラブ。アラブ種特有の細めの馬体やスッキリとした顔はシャギア・アラブにも引き継がれている。また5頭立ての馬車の乗り心地はまさにエレガント。一度でやみつきになること間違いない。

シャギア・アラブの生産がバーボルナの名を世に知らしめたと同時に事業の中心ではあったが、ビジネスとしてより高い利益を生むことを考えて、エジプト産アラブ純血種の育成やイギリスのサラブレッドの育成も行うようになった。
ところで、戦前のことになるが、日本とバーボルナが交流を持った記録が残っている。1926年、バーボルナで生まれ育ったシャギア・アラブが昭和天皇に献上されたのだ。天皇自身が「白雪」と名付け、御料馬として活躍した。
現在も国立には違いないが、社会主義政体の時代とは母体が異なる。現在のバーボルナは2001年に新たに発足したものだ。社会主義の時代にはホースファームだけでなく、農業や牧畜等も含めたハンガリー最大の集団農場だったこともあったが、最終的に残ったのは馬の生産、育成のみだった。

 

馬関連施設の中でマストシーのスポット

撮影のために正式な装いで馬車を仕立ててもらった。御者だけではなく馬の装飾も見事だ。バーボルナ国立スタッド・ファームで飼育されているシャギア・アラブ種は持久力があり性格も従順なので馬車を引く馬としても適しているという。

現在、バーボルナ国立スタッド・ファームでは約300頭の馬を飼育している。より多くの人にこのホースファームの事業を知ってもらうため観光スポットとして広く門戸を開いている。
この場所を訪れた人は、建物の黄色にまず圧倒される。日本でいうと山吹色に近い渋い黄色で建物すべてが覆われている。建物を抜けると美しく整えられた庭園があり、そこに白いシャギア・アラブが正装した御者の乗っている馬車を牽いて現れる。150年ほど昔の時代にタイムスリップしたのかと戸惑うようなその光景はまさに一幅の絵となる。

 

馬とともに過ごす、ドラマチックな日常

バーボルナ国立スタッド・ファームの第2の敷地は、豊かな自然が特徴で水をたたえた大きな池などが作られている。また、厩舎から放たれた馬たちは広々とした放牧場をのびのびと駆け回っている。その移動の際の馬の動きはまさに美しい、感動的な一枚の絵となる。

また、ウィーンのスペイン乗馬学校を彷彿とさせるシャンデリアが吊り下げられた屋内競技場、馬の博物館や「5頭立ての馬車」と名付けられたレストランにホテルも備えていて、大きなイベントや結婚式にも対応している。さらに、メインの敷地から車で5分ほど行った第2の敷地には広々とした放牧場と広大な植物園があり、こうした場所を馬車でゆっくり見学することができる。
しかし、いちばんのおすすめは早朝と夕方に若い牝馬を厩舎から放牧場に放す瞬間を見ることだ。ゲートを解き放たれた若馬が荒々しい野生馬のように集団で疾走する姿を朝日と夕日を背景に1日2回見ることができる。このドラマチックな光景には馬にさほど興味がない人であっても、その美しさに圧倒されるはずだ。

 

Bábolna National Stud Farm

Bábolna Nemzeti Ménesbirtok
H-2943 Bábolna, Mészáros út 1.
Tel.:+36-34/569-292, +36-34/569-229
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